添乗事件簿 – 初めての霊体験

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ほとんどの人は“幽霊や心霊現象”とかは信じないのでしょうかね?

僕も“一応”は信じていません。 いや、“たぶん”そんなんは絶対にないと思ってはいます。でも1回だけ、あれが「何だったのか?」が理解できない恐怖体験をしたことがあるので、ちょっと書きます。

*国内添乗<イメージ>

それは旅行会社時代の添乗時の話しなので、ちょっと古い話です。

ある10月の第3土曜にずっと僕が担当をしている“歯科医師会”の慰安旅行で静岡県を訪れました。

宿泊は湖畔沿いにある由緒ある旅館で17時頃にバスは到着し、支配人らしき人が僕たちを出迎えてくれた。部屋の鍵をお渡しをしてお客さんがすべてお部屋に入るのを僕と支配人は見届ける。

お客様の姿が見えなくなった後、支配人が横に並ぶ僕の方を向いて「今日、添乗員さんもご一緒だったんですね・・・」とちょっと困った顔で言ってきた。

僕はちょっと“イラッ”としたが、まぁよくあることなので「予約は”添乗員付”きでしていますよ~!」と僕は笑顔で返答する。

支配人は「あら~・・・。じゃ、うちのミスだぁ・・・。実は今日、部屋は満室なんですよ」と言って、さらに困ったなぁ~と言う顔になった。

ボク:「どこでもいいですよ。宴会が終わった後の広間でもいいし!」

支配人:「有り難うございます。 でも、なんとか部屋を探してみますので宴会が終わる頃まで少しお待ち頂いても宜しいですか?」

ボク:「全然待ちますけど、本当に気にしないで下さい。どこでもいいですから!」

と言って、僕は鞄などをフロントで預かってもらって18:30からの宴会の用意を確認しにいった。

宴会も盛り上がって21:00頃に終了し、その後2次会の案内などをして仕事が終了したのが22時頃。

僕は自分がどこで寝るのかをフロントに確認しにいくと、そこに支配人が笑顔で「添乗さんのお部屋ですけど、今夜は当旅館の貴賓室にお泊まり頂きます!」とドヤ顔で言ってきた。

支配人のドヤ顔は「おまえごときの添乗員が貴賓室に泊まれることを有難く思え!」的なものかもしれない。 いや、これは被害妄想か・・・。 

たまにこういうこともあってもいいかも知れない。まぁ、素直に有難く泊らして頂こう!と、最後はちょっと喜んだ。

仲居さんが僕を貴賓室に案内してくれる。貴賓室は最上階の角部屋で、高級な革のソファーセットがおかれたリビングと15畳くらいの和室、そして奥にまだ洋室と和室があるみたいだぁ。

「添乗さん、今夜は洋室で寝られます? それとも和室が宜しいですか?」と聞いてきた。洋室はさらに奥にあるので、僕はリビングに近い「和室でお願いします」と答える。

仲居さんは笑顔で「じゃっ、お布団を敷きますので少しお待ち下さいね」と言いながら、押し入れの布団を出して準備を始める。

仲居さんは手際よく布団を敷きながら「先週は歌手の○○さんが、お泊まりになったんですよ!」と言ってきた。それはレコード大賞を受賞しているとても有名な女性の歌手。

今の時代なら「個人情報が!」とえらい話しですよ。 いや、昔もペラペラと有名人のプライベートを話すのはよくないか・・・。

その仲居さんに悪気は全然ないので、僕は「へぇ~凄いですね。そんなところに泊まれるのは嬉しいですね~!」と笑顔で返す。

布団を敷いた仲居さんは「じゃ、ごゆっくりどうぞ!」と言って部屋を出て行った。

僕はリビングにある広い窓の外を眺めながらネクタイをほどく。その時、なぜかふと「会社の社長さんとか、倒産して自殺する前ってこういうところに泊るねんやろなぁ~」と思ってしまった。今ふり返ると何故、急にこんなことを思ってしまったのか・・・。

それから誰もいない大浴場に入って、部屋に戻った僕はすでに0時も過ぎていたので15畳の和室のど真ん中に敷かれた布団に入る。

電気はすべて消さないと僕は眠れない。 だから、部屋は真っ暗。

布団に入って5分くらいたったころ、和室の入口側のふすまの扉が“ガタガタ”と風になびく感じで音がしてきた。

僕は「あれ、なんや。貴賓室なのに風がもれてんのかい!」と単純に思って、リビング近くに置いていたバスタオルをふすまの扉に音が鳴らないようにつめた

「オッケー!これで大丈夫やろ!」と手で扉がガタガタしないのを確かめて、僕は再び電気を消して布団にもぐる。 するとそれから1~2分後にまた、ふすまの扉が“ガタガタ”と鳴り出した・・・。

僕はガタガタと音が鳴り出したその瞬間に今まで経験したことのない恐怖に包まれる。

「これはアカンやつやん!アカン、アカンやろ~」と顔だけ布団から出していた状態から、頭まで布団をスッポリかぶる僕・・・。

それから、ふすまの“ガタガタ”は5分ほど鳴っていただろうか? いや、もう時間がどれくらい経ったのかもわからない、まったく脳が働かない状態。

布団の中で恐怖におののいていると、急にそのふすまのガタガタ音は止んだ。僕は「あれ、何?もう大丈夫なの? 布団から顔出しても大丈夫?」と自問自答をしていると、今度はあきらかに人の歩く音が聞こえてきた。 それも結構大きめの「ギシッギシッ」踏みしめる音・・・。

その時点ではもうパニック状態なので、その足跡が入口から洋室に向かう“廊下から”なのか、“天井から”なのかが分からない。

その時、自分自身に「おい、自分。ちょっとしっかりしろよ!」と言い聞かせて、布団の中から耳を澄ますとその足音は“天井”から聞こえてくるような気がする・・・。

「あれ、天井っておかしいやん!ここって最上階やん!」と恐怖心はMAXに・・・。

僕のその時に布団中で描いたイメージは、貴賓室のこの和室の天井を逆さまになって幽霊が歩いている感じ・・・。きっと、その目は逆さまになりながらもこっちを見ているはずだ。

僕はスッポリかぶった布団の中で「どうするぅ?? まだ1時頃とちゃうん?? 朝までまだめっちゃ時間あるでぇ」と絶望的になった。

それから、僕は恐怖におののきながらも朝をむかえた。「あれ、もしかして寝たんか? 俺は寝たんか?」と何回も夜を思い出そうとするが、その恐怖MAXの時からまったく記憶がない。

布団の中から入口の扉のふすまを見ると、バスタオルがちゃんと挟まったまま・・・。夢ではない。

朝、7時30分に僕は朝食会場でお客様を笑顔でお迎えする。ニコッ!

そのグループとは長年のお付合いをして頂いているので、何でも話せる間柄にはなっているが「僕、昨夜は貴賓室に泊りました!」とは絶対に言えない。 ましてや、そんな霊体験を話せるわけがない。話すと、「ボケとったんとちゃうか?」と言われるのがおち。

チェックアウト前に僕はバスが迎えに来ているのかどうかを駐車場に確認をしにいく。そこに昨日から一緒のバスガイドがいたので、僕は「あのさぁ、昨日・・・・・・という恐怖体験をしてんけど、この旅館ってそんな変なことないよね?」と聞いて、ガイドから「ありませんよ、そんなこと!」という返事を待つ。

ガイドは少し後ずさりしながら「いやぁぁ~添乗さん、ここ“出る”ってチョー有名ですよ」とあきらかに“恐ろしい”という表情をしながら僕に期待外のことを言ってきた。

それを聞いた僕は何も言えなかった。「何も言えねぇ~!」と言った北島康介はこういう気持ちだったのか・・・? いや、違うなぁ。

そもそも、リビングで「会社の社長さんとか、倒産して自殺する前ってこういうところに泊るねんやろなぁ~」と思ったのがダメだったように今思う。普段はそんなことを考える性格ではないのに、その時はすぅ~とそう考えてしまった。

国内の添乗の時は“絶対にここで何人か死んでるやろ?”と思わせる部屋に何度も泊らされているが、その後の霊体験は1度もない。 

だから、「君は幽霊を信じるか?」と聞かれると僕は「信じません!」と答える。 もしこれが“2回”経験していたら「そりゃ、おるでしょう」と答えるかも知れない。

今は僕の恐怖体験の1週間前にその貴賓室に泊った”超有名なレコード大賞受賞歌手”に街で偶然出会ったら、多少失礼でも「あの○○の貴賓室で怖い体験しませんでしたぁ?」と是非聞いてみたいと思っている。

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